古書ますく堂のなまけもの日記

古書ますく堂の日記(大阪市阿倍野区共立通1-4-26に移転しました)お休みなどの告知はここにてお知らせします。

ポエカフェ 色篇

久しぶりの喫茶伯剌西爾である。新見南吉のポエカフェがあったけど、東京ではひっさしぶりのオンラインじゃない開催なのだ。

事前に朗読したい詩はどれ?と言われ各自、これがいいという。そして他の方とダブってしまった私は案の定、抽選に敗れ・・・・・・さらに希望を出してねと再度、分厚いテキストを睨む。うう、高田敏子じゃないんならもう短いので何でもええわと半ば、なげやりにみていたら、あるじゃないか、とっておきの短詩が、槐多が。

テキストは色別に進みます。まずは青。どう考えても一番多そうな青。

1)左川ちか「死の髯」

最後の一行だけでもわからないなりに強烈なパンチが飛んでくるイメージ。

死は私の殻を脱ぐ。

『今日の詩』1931

 

2)菅原克己「ぼくらにある住家」より

最初、中盤、そして最後と3回繰り返されるこのフレーズがいい。確固たるものがあるからこそ言えるこの言葉。

ぼくの信ずるものを

信じてくれ。

『日の庭』

3)レンツォ・リッキ「この青い夜明けは」訳 鷺山郁子

最後の

過去を持つことが

ぼくたちを救う

『イタリア現代詩アンソロジー

とある。過去を持てる、そのことに感謝したい。

4)室生犀星「月草」

今年は夏から急に冬でしたよねと言いたくなるがそんなときにこの詩をよもう

秋はしづかに手をあげ

秋はしづかに歩みくる

『抒情小曲集』

そう、秋はきっと私の気づかないうちに訪れていたのだ。

ここからは水色。これが一番人気だったとか。納得なり。

5)永瀬清子「外はいつしか」

最後の2行は次の一行が繰り返されている

私にそそげ春のみずいろ

春よ来いと切実に願い、そして

真ん中あたりの

私の心の弱さかぼそさ

わがままにさへ私はねがふ

よい時季よ私に来てくれ

『大いなる樹木』

耐えてきた人の強いねがい、そんなものが垣間見えてくる

詩をかくのは仕事だからそれだけは邪魔しないでと結婚早々、旦那に言い放った

心の強さ。そして詩だけは手放さないという覚悟の現れ。私は今年読んだエッセイでは彼女の「光っている窓」(編集工房ノア)がべらぼうに良かった。

お次は空色

6)天野忠「空」

鳥も虹もない空。空色だけがある空をぽかんとみていたお前。それをみていた私。

こういう時間があるのっていいな。

7)吉野弘「空の色が」

これは或る人に届けと切に願う詩でしょうか。はたまた成就したのか。

海に届いている空を 泳ぎました

『贈るうた』

こんな素敵な表現があるなんて。

ここから海の色です

8)中桐雅夫「海」より

ああ、この色を僕の眼の色にできるなら

『現代詩文庫38 中桐雅夫詩集』

海をみつめててこの色を僕の眼の色にできるならとそんな素敵なことをこれっぽちも考えたことのない私にこの1行はずどーんと響きました。

ぼくの眼があの通りの色ならすべての本は投げ棄ててもいいとおっしゃってます。

ここまで言われたら、根府川と真鶴の間の海を見たくなるってもんでしょ!

9)サラ・ティーズデール「灰いろの眼」西條八十

これも表現が素敵な詩

あなたの灰いろの眼をみてると初めて海をみた日のような気がすると。

10)丸山薫「青い色」

青系統の色って眼と関連させてくるものが多いのだろうか。それとも偶然なのか。

青、海、眼。この詩はぐんぐんとイメージがひろがっていく、そんな詩。

黄色にいきまっせ

11)マヤコフスキー「青年の頃」

監獄の中でこの詩も書かれたのだろうか。黄色い太陽の貴さ。最後の1行がべらぼうにいい。

この世のすべてを投げ出す気だった。

『ぼくは愛する』

12)R・ブローティガン「ライオンは風に乗って黄色いバラのように」

高橋源一郎

最後までじーっと読んで

どうも、ありがとね

ロンメル進軍』

で終わるこの詩。え?は?読んでくれてありがとうってことじゃないよね。

直前のマヤコフスキーに劣らず?マークがとびかっている私の頭の中。

わたしたちは何を振り返ったのだろう。人生のどのシーンを振り返ったのか。

ライオンが黄色いバラにたとえられている。動物の王者ライオン。花の王者となると何だろう。

13)竹内浩三「しかられて」

三日月さんも

出て来たよ

お月さん、月にさんをつけるとこんなにかわいくなるんだな

緑にいきます

14)高見順「われは草なり」

七五調で1945年に書かれた。反戦詩などおもてだって書ける時代でなく伸びられぬ日は伸びぬなりとじっと耐え忍んできたのであろう。ちょっと何かに失敗してすぐにいじけてしまう弱い心にこの詩を叩き込みたい。

草のようにたくましく生きてやるという強い思いが伝わってくる。

15)吉野弘「名付けようのない季節」

そして気付く。ぼくらの季節が

あまりにも樹木の季節と違うことに。

『幻・方法』

ぼくらの季節とは何だろうか。人間が勝手に考える季節感だろうか。

16)大岡信「春のために」

2連目がいい

おまえの手をぼくの手に

おまえのつぶてをぼくの空に ああ

『記憶と現在』

17)工藤直子「地球は」

地球は

みどりを着るのが好き

工藤直子詩集』

こういう素直な詩を読んでいると地球を汚してごめんなさいと言いたくなる。

せめて地球の晴れ着がずっとみどりでありますように努力しなきゃ

18)スオン・ジウ「妻に」より

妻へのラブレターだな、これは。

おまえの愛情は忠実におれのあとをついてきて

ベトナム詩集』

というフレーズがとてもいい。

ここからは紫

19)村山槐多 

これね、読んだ瞬間、もう「参りました」としかいえません。

これは同期の男の子に恋をしていた頃の純粋な気持ちをうたったという解説があり、

なるほど、それで孔雀より美しきまつ毛か。

鳥はメスをひきつけるためにオスのほうが美しいという意見もありました。

瞳ではなくまつ毛とするところが上手い。

20)矢沢宰「秋」

秋といえば何色でしょうか。この詩では秋は透明な薄いむらさきというておる。

病気で昭和41年21歳という若さで亡くなった矢沢宰。最後の3行が切ない。

強い死なない人だけが

首をたれて

落葉をハラハラと浴びるのだ

『光る沙漠』

21)エミリ・ディキンソン「二四五」

この人の詩も難しい。2連目の1行目

目をさまして 正直な手を叱った

宝石は消えていた

 

ううん、正直な手って何を意味してるんだろう。この詩にでてくる宝石とは

何かなあとゆっくり考えながら読むのも難解だけど楽しい。

次は藤色ですってよ

22)川崎洋「風にしたためて」

もうね、このタイトルがいいではないか。風に手紙を運んでもらうのかなあ、あの優しく美しかった人へ。

 私の服は茶色か黒ばかりです、さ、茶色ですよ

23)中原中也「サーカス」より

茶色い戦争ありました

『山羊の歌』

戦争があったんだよと、もう二度としてはいけない過去の話として今後永久に語れるようにしなければならない。

24)立原道造「失なはれた夜に」

灼けた瞳が 灼けていた

『暁と夕べの詩』

この灼けた瞳がきらきらしては僕の心をつきさしたとある

どんな瞳だったんだろう。とっても情熱的な瞳で中也の心を突き刺したのかな。

甘ったれるなよと。

桃色に突入です

25)竹中郁「晩夏」

ここでも秋はしづかにと表現されている。

橙、オレンジにいきますよー

26)ハイネ「帰郷」より

最後の2行の描写がいい

あまねく灰色の海を

金の光りで照らしている

わたしの姉妹とでてくるがハイネが恋していた従姉妹のアマーリエだろうか

『ハイネ詩集』

27)田中冬二「さむい月の出」

乞食の子がさむいよふけにでてくるんだけど暗さを感じさせずむしろ月が出てくるのを楽しんでいるような詩

28)田中冬二「橙の実」

鏡餅の上にのっているのはみかんではなく橙なのだということを今日、教わる。

最後の一行

あの匂ひは日本の冬の匂ひである

『海の見える石段』

こういうのを大事にしていきたいと思う

黒どす

29)J・プレヴェール「カタツムリさん葬式へ行く」より 大岡信

お葬式では喪服のカタツムリさんもその後の思い出話をするときは喪服を脱いで楽しみましょという暗ーく落ち込まないでねと。いのちの色に着替えなさいというのがいいねぇ。

ここでも月はお月さん。優しく見守るお月さん。

30)田村隆一「叫び」

今年生誕100年だそうな。1945年復員して大塚から巣鴨へ歩いていたときに焼け跡をまざまざとみせつけられ喪失感を抱く。悲痛な叫びしか浮かんでこない、それくらい黒いものがひたひたとちかよってくる怖さがこの詩にはある。

最後の一行

あなたは彼女の叫びを聴くでしょう

『四千の日と夜』

この彼女は何を指すのか。

31)パウル・ツェラン「死のフーガ」より飯吉光夫訳

ツェランの両親はユダヤ人。強制収容所に入れられ、殺された。ツェランルーマニア生まれのドイツ系ユダヤ人。

黒いミルクが冒頭から目に焼き付く。ミルクは白だ。不吉な黒。およそミルクにはふさわしくない死の象徴の黒。

自分たちの墓を掘らされるユダヤ人たち。

何故、戦争は起きるのか。人間は戦争をやめようとしないのか。

鉛色にいきますよ

32)プーニン「ふるさと」

黒と同様、鉛色もどんよりとしたイメージがある。

死んだような鉛色という言葉から始まるこの詩のように。

それでも誰かのすなおな悲しみがほの暗い遠景をやわらげるとあるのがいい。

白、それは無色なのか、いや白という色なのだ。

33)高橋新吉「皿」

ええと誰かさんが朗読するだろうと出したら誰もよまなかったというかわいそうな新吉さんの詩です。これ、読みたくはないよね。視覚的な詩と朗読向けの詩に分けるとすればこれは断然、視覚で楽しむ詩。皿っていう文字が27個も続くんですよ。早口言葉よりむずいっすよ。誰ですか、こんな画期的なこと思いついたんは!

皿を割れば

倦怠の響が出る。

ダダイスト新吉の詩』

と最後にあるんですが、私も皿を割ったときは逃げたくなりましたわ(おい)

34)ハン・ガン「ある夕方遅く 私は」きむふな・斎藤真理子訳

今という一瞬はその瞬間に過ぎ去っていく。

茶碗に盛ったごはんから湯気が上るのをみていて

何かが永遠に過ぎ去ったと。

日常の一瞬を切り取った詩

35)塔和子「めざめた薔薇」

黄色い薔薇がでてきたと思ったら今度は白い薔薇である。11歳でハンセン病になり、療養所で生涯を送った塔和子。

4,5行目がいい。

セルリアンブルーの空から

光がほどけて飛び散る朝のことだ

『めざめた薔薇』

36)菊田守「蝶」

最後の行に

白を更に白くして

『蚊の生涯』

とある。傷つきながらそれでも飛んでいく紋白蝶。

白とくれば次は透明だよね

37)原民喜「悲歌」

死の直前に書いたという

最後の2行がいい

私は歩み去ろう 今こそ消え去って行きたいのだ

透明のなかに 永遠のかなたに

原民喜詩集』

38)宮沢賢治小岩井農場」パート九より

5行目がとってもいい。

すべてさびしさとかなしさとを焚いて

ひとは透明な軌道をすすむ

春と修羅

39)長田弘「雨色の時間」

タイトルからして素敵だが、古本屋にとって雨というのは厄介なんである。

だがこの詩にでてくる雨というのは素敵なのだ。よく知ってる風景ですら雨がしらない風景に変えるという。この詩を読んでいるとちょっと雨っていいよねと思えてくるから不思議だ。

赤。勿論、カープの赤である(おいおい)カープファンにとって赤は聖域、別格なのだ

40)北原白秋「片恋」

あかしやの金と赤とがちるぞえな。

『東京景物詩及其他』

もう冒頭の1行だけでぐっとこの詩に入り込める、それだけの力がここにはある。

41)村山槐多「一本のガランス」

再登場の槐多君。この詩もいいよねぇ。高田敏子の次にいいなと思ったのはこれでした。でーも、長くて人前で読むのはちょっとあれなんやけど。

まっすぐにゆけ

『槐多の歌へる』

この1行に励まされるんだよなあ。

自分の道をまっすぐ突き進めって。茜色をさすガランスという言葉が9回もでてきて

ぐいぐいと押してくるのだ、進め、前進せよ!と。

42)高田敏子「紅の色」

これを希望したら見事に抽選で外れました。私は色というテーマと聞いて、珍しく予習をしようと思ったのです。色ってきりがないがなと思いつつ、好きな詩人の本から探すべと手に取った本で最初に見つけたのがこれなんですの。会場では私は勿論、19にしたんだろうと疑惑の突っ込みが東京、名古屋方面から入ったことだけご報告しておきまする。

ここにでてくるある詩人とは安西均スラムダンク安西先生といい安西さんにはいい人が多い。子供が独立して夫とは離婚した高田敏子。

最後の2行

私のやさしさは

ひとりの時間のなかをさまよっていた

『あなたに』

この詩がでてくる『あなたに』という本をもう一度読もうっと。

山口百恵秋桜」にもでてくるうす紅にまいりまーす

43)ヒルデ・ドミーン「言語学」より加藤丈雄

この詩もいいなあ。ぴっぽさんの今回のテキスト、何人載せてんねんというくらい膨大なんだよ。そして知らない詩人を、詩を知れるこの楽しさたるや。

ドイツ系ユダヤ人の作者は第二次大戦前に亡命したらしい。

あなたは果樹と言葉を交わさなくてはならない

 

という1行から始まり、あらたな言葉を見いだすのですと続くんだが最後の2行にどきっとする。

実をつける木にゆだねるのです

あなたに不当がなされたときも

『びーぐる』35号

 

44)杉山平一「花火」

爆発する筈の花火がどぶに沈められているのを

それを自分のことだと思って僕は泣いたと。

この純粋な感受性をいつまでも持っていたい

金色です、金メダル

45)エセーニン「犬の歌」より

アル中になって自殺したロシアの詩人。

この犬の詩は悲しい。川面の水がながく、ながくふるえていたという

最後の1行がもの哀しい。

46)ラオ・ムー「あの大雨の追憶」是永駿訳

2連目が面白い

傘をさすとは何

待つとは何

『中国現代詩三十人集』

 

という感じであと2行も「何」という単語で終わっているのだ。

47)この人もまた登場ですね、中原中也「早春の風」

銀やら金やら女王やら羽振りのよさげな単語がでてくるけど読後、そんな感じでもないのはなぜかなあ。

銀の鈴に金の風。早春の風は金の風なんだね。

銀色いきますよ

48)室生犀星「蛇」

蛇、あんまり好きじゃないんだけどなあ、蛇って何の比喩なんだろう。

君をおもへば君がゆび

するするすると蛇になる

『花の詩集』

バラ色の人生をということで次は薔薇色

49)レミー・グルモン「バラの連祷」の一部 大手拓次

3連、ここには掲載されているんだけど、どの連も最後が

偽善の花、無言の花で終わっている。

どんな花を思い浮かべているのだろう。

最後は多彩な色

50)大手拓次「季節の色」

うつりゆくいろあひ、季節の中でわたしという人生が動いていく。

ひらがなを多用していて、面白い詩

51)ラングストン・ヒューズ「アラバマの夜明け」諏訪優

黒人と白人 黒人白人黒人たちの

白い手と

黒い手と 褐色の手と 黄色い手も入れるつもりだ

『不思議な果実 アメリカ黒人詩集』

 

ユダヤ人、黒人、戦争、忘れちゃいけない差別、歴史、二度と繰り返してはいけない歴史。知らない詩人を知ることで知らない詩をよむことで学べる

敷居の低い学びの場所、それがポエカフェ。

今日のおやつ、めっちゃおいしかったーー!白山「エリティエ」のマカロン!ああ、これ、全種類制覇したい。でもいっぺんに食べると勿体ない。